文化遺産
Vol.17
「防雪柵も地産地消」
由利高原鉄道黒沢駅

 雪国秋田にもやっと遅い春が訪れようとしている。毎年のこととはいえ、雪には本当に難儀させられる。あれだけの大量の雪なのだから、毎年毎年苦労させられるだけではなく資源として有効活用できればいいものだけど、人類の英知をしてもなかなか妙案が浮かばないもののようである。
 鉄道にとっても雪は大敵で、安全運行、定時運行のために相当な神経と費用が費やされる。秋田新幹線が吹きだまりに乗り上げて脱線した事故の記憶は新しい。JRはさっそく翌冬までに延長2kmあまりの区間に防雪柵を設置する工事を行った。車窓からの景観を損なうので痛し痒しだが、背に腹は代えられないということであったのだろう。
 ところで、由利高原鉄道の黒沢駅近くで“撮り鉄”していたとき、最初は周りの農村風景にとけ込んでいて気づかなかったのだが、この写真に見える木の杭とムシロの構造物もどうやら“防雪柵”のようである。
 目から鱗というか、なるほどこういうやり方があったのか。この材料であれば田舎では比較的容易に、かつ安価に手に入るし、杭を地面に刺せばいいだけだから基礎工事も要らない。雪が解けて用が済めば杭を抜いてしまえばいいだけだから、そこが農地だとしても本来の目的で使える。見た目でもいかにも田舎の風景っぽくて好ましいのではないか。都会からの観光客にも喜んでもらえるかもしれない。
 津軽地方では、地吹雪から家屋を守るための木の板を並べた「カッチョ」という簡易防雪柵があって、それが風物詩のように位置づけられていてパンフレットやガイドボックにも載っている。してみれば、このムシロの防雪柵だって立派な観光資源だ。意識的にそれをPRすれば、来冬あたりはわざわざそれを見たいと由利鉄に乗りにくる観光客がいないとも限らない。
 材料が地元で安価に入手できて、設置撤収が簡単で再利用できて、コンクリートを使わないから環境にも優しいし、おまけに風物詩として観光資源にもなりうるとしたら、これはもう、いいことづくめではないか。
(文・写真/加藤隆悦)