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Vol.36 |
滝ノ沢三十三観音 |
横手市睦成滝の沢 |
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今回ご紹介する写真は、横手市街中心部からさほど離れていない場所にある滝である。滝の写真を好む人であれば思わず目が留まる姿形のいい滝だ。苔むした岩場を玉簾のように水が流れ落ちる様には清涼感もあり、酷暑の夏にはなおさらこういう場所に出向いてみたいと思う人もいるだろう。
しかしこの滝には「◯◯滝」というような名前はついていない。一般には、「滝ノ沢」あるいは「滝ノ沢三十三観音」と呼ばれているようだ。
三十三観音の名の通り、この水の流れ落ちる岩場には小さなお地蔵さん(観音様)がまつられている。今も33体残っているか数えてみたことはないが、分かりづらいかもしれないがこの写真でも右下のほうに2体のお地蔵さんが見て取れる。
秋田藩初代藩主佐竹義宣の側室であった岩瀬御台は、義宣と不縁になったのち、横手の須田美濃守に預けられこの滝ノ沢の地に茶室を建てて余生を過ごした。そんな寂しい生涯を送った岩瀬御台の霊を慰めるために昭和10年に地元有志が33体の地蔵を建立したのが、滝ノ沢三十三観音のいわれである。
この場所へは今であれば、横手南小学校と横手興生病院のあいだの細い道を東に向かって5分ほどクルマで分け入り、滝ノ沢の看板のある駐車場に車を止めて山道をさらに5分ほど歩く。名瀑探訪としては比較的容易なアクセスといえるが、侘しい場所であることに変わりはない。
人は、悲しいときや寂しいときに明るい音楽を聴くよりも、いっそうせつない音楽を聴きたくなる心理がある。
岩瀬御台も、おのれの悲しい定めの運命にあらがえないと知ったとき、いっそう侘しい思いにかられるこの場所に、居心地のよさを感じたのだろうか。
横手では小学校の遠足で滝ノ沢に行ったことがあるという人もいるようだが、今は訪れる人もけっして多くはない。ときどき遊びに行ってあげれば、岩瀬御台も喜んでくれるのではないだろうか。 |
(文・写真/加藤隆悦) |
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