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秋田弁で遊ぶ |
あゆかわのぼる |
南秋出身だという女性の方から電話があったのは、4月の終りごろだった。 |
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「先日テレビを視ていたら、熊本県の天草地方で御飯のおかずの事を『御飯のシャー』と言うと言っていた。秋田弁では『ママのシャッコ』というがどこか似ている。その関連性を説明してくれ」 かなり学術性の高い質問である。変な言い方だが、私に分かるはずがない。調べるにも、その術を知らない。机の上に数冊の方言辞典を積み上げてボー然とする事数日。ある時、全く無意識に膝をパンと手が打った。 「そうか!」 おかずの事を『菜(さい)』という。犯人はこれだ。 学習研究社の『全国方言一覧辞典』を手に取り、『おかず』の項を開いた。そしたらあにはからんや、沖縄などホンの一部を除いて、おかずの方言が“おかず県”と“おさい県”に別れる。そして、東北では秋田、山形、福島が“おさい県”。九州も鹿児島を除くと“おさい県”と分かった。秋田弁は、可愛いものにはお尻に“コ”をつける。『おふるめこ(ご祝儀)』、『きのごっこ(茸)』などのように。故に、『シャッコ(菜ッコ)』。 ついでにページを捲ってみると、「ありがとう」は秋田弁で『おーぎね』というが、関西では『おおきに』。県北の方で使う『んだばて』は、博多弁の『ばってん』だし、県の内陸南部あたりで涙を『なだ』と言うが、ご存じ夏川りみのヒット曲『涙(なだ)そうそう』で分かるように沖縄弁でもある。 ついでに、秋田弁で『けなり』という「羨ましい」が関西では『けなるい』と言うらしいし、『とぜね』も、関西地方で『とぜんなか』と言うと辞書に出ている。 なぜそんなに離れているのに同じような方言が使われているのか、定かな事は知らない。しかし、方言は、日本語がその土地のアクセントやイントネーション、あるいは訛りによって生まれたり、略したり修飾されてできたり、北前船などの船運や食料(『なだ』は米と一緒に本土に入った、と教えてくれた人がいる)、商人などが運び、それぞれの気に入った土地に落ち着いたものと思えば納得する。 柄にもない偉そうな事を言うが、根拠にはかなり乏しい。しかし、日常生活にはなじめなくなったのか、特に若い人たちが敬遠して、次第に消えてゆく。昔、パン食の薦めがあり、「米を食えば頭が悪くなる」と言われ、特に都会の人たちがパンに走った。今でも、朝、パンにコーヒー、あるいはミルクというのが文化生活と勘違いしている人が多いように、方言も、特に昭和30年代の方言追放運動で痛め付けられ、これもまた、共通語を使うのが文化の先端と刷り込まれてしまった。 ところがである。私は3年ほど前からテレビで、視聴者から寄せられる秋田弁を織り込んだ川柳の選者をやっているが、そこに寄せられる作者の大半がお年寄り。中には卒寿過ぎた方もおられ、皆さんが、秋田弁と川柳で生き返ったとお手紙を下さる。70代の女性は、夫を亡くしてから、入院までした鬱病で引きこもっていたが、秋田弁と川柳作りで蘇り、最近はゲートボールに出掛けるようになったとお便りをくれた。 方言は深くて楽しくて癒されるその土地固有の文化である。 ※『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(東宝・2003年) |