![]() |
|
「うちの奥さん」考 |
永井登志樹 |
毎年今ごろの2月から3月にかけての時期は、年度末に集中する提出原稿の締め切りでアップアップなり、精神的に追いつめられるのが恒例で、今年もそんな状況に陥りそうな状況である。時間的に余裕があるうちに仕事を片付けていればいいだけの話なのだが、それがなかなかできない。「明日できることは今日やらない」という自分の怠け者体質というか、逃避体質というか、キリギリス体質というか…楽な方へ楽な方へと走ってしまう性向は若い時からのもので、歳をとっても少しも改善されることなく今に至っている。 |
![]() |
つまり、「奥さん」は他人の妻に対する敬称だということになる。それでは、【妻】はというと、 ・結婚した男女のうち、女性のほう。※古くは「つま」に「夫」の字をあて、配偶者の男女どちらをもさした。(「明解国語辞典」) 日本語には女性の配偶者としての「妻」と同じ意味で使われることばがたくさんあって、インターネットのYahoo!辞書の類語辞典で調べたら、以下のように出てきた。 ・連れ合い 夫人 婦君 細君 主婦 女房 嬶(かかあ) 内儀(おかみ) ワイフ ・(相手方の)奥様 奥方様 ・(自分側の)妻(つま・さい)家内 愚妻 老妻 小妻 ここにあげたほかによく使うのは「(うちの)かみさん」だろう。子どもができてからは「かあさん」と呼ぶようになる人も多い。「山の神」なんていうのもある。あとよく耳にするのが「うちの嫁、嫁はん」という言い方。TVで関西の芸能人が喋っているのが伝染したのか、最近は関西出身以外の人も使ったりしている。本来は息子の親の立場から息子の配偶者を指すことばのはずなので、これにも違和感を覚える。 ただ、「うちの奥さん」や「うちの嫁はん」という言い方が一般的になっていくのも、わかるような気がする。みんな自分の妻が好きで愛しくて、そしてちょっぴり怖いのだ。その気持ちを表すには、「妻」じゃ堅苦しすぎてそっけない。「女房」はちょっと古くさいし、「細君」はなんとなくきざったらしい。今どき「ワイフ」や「ベターハーフ」の横文字もどうかと思う。「家内」は家の中という意味だから、差別語ととられかねない? 考えてみると、日本語には自分の配偶者を指す語はたくさんあるが、英語の「honey」「darling」のような夫婦間の親密さを表すことばはほとんどない。かつて松任谷(荒井)由実が『ルージュの伝言』という曲で歌っていたような「マイダーリン」「マイハニー」と呼び合う夫婦は、この日本では稀少だろう。「うちの奥さん」のことばの中には、英語の「my honey」の意味合いが含まれているのではないだろうか。 「うちの奥さん」は日本語の用法としては間違っているのだけれど、村上春樹氏のことだから、それを承知のうえでわざと使っているのかもしれない。村上氏の一番(最初)の読者であり、おまけにマネージャーでもある奥さんへの敬愛の現れ、もしくは愛情深さのアピールとして…。ということは、案外、恐妻家なのか!? ちなみに私は妻のことを対内的(身内や親しい友人)には「名前にさん付け」で呼んでいる。対外的には「妻」がほとんど、たまに「連れ(合い)」も使う。時々「うちの奥さん」と言いそうになるが、意識して使わないようにしている。妻のほうは私のことを対内的には「苗字に君付け」で呼んでいる(ようだ)。職場では「旦那」とも言っているらしい。対外的にはよくわからない(たぶん夫か)。一度だけ私の友人に「主人」ということばを使ったことを知っているが、もの凄い違和感があった。たぶん、そのことばにふさわしい行いを全くしていないからだろう。 |