文化遺産
Vol.20
船越水道[ふなこしすいどう]
男鹿市・潟上市

 男鹿半島の付け根に位置し八郎潟残存湖と日本海を結ぶ全長約2kmの船越水道には、4つの構造物が直交している。河口側から、国道の男鹿大橋、JR男鹿線の鉄橋、旧道の八竜橋、そして防潮水門である。
 3本の橋が水道をまたいで越えていくためのものであるのに対して、防潮水門は、この船越水道の役割に大きく関わっている、ある意味、水道と“一心同体” の存在である。
 干拓前の八郎潟は、周辺の河川から流入する淡水と、潮の満ち干で船越水道から逆流する海水が混じり合う汽水湖だった。しかし、干拓によって八郎潟の中に島状に穀倉地が誕生し、周辺にある水をかんがい用水に使うとなると、汽水のままではまずい。純然たる淡水でなければならない。そのために、船越水道からの海水の?行き来をせき止め、八郎潟残存湖を真水化する“ というたいへん重要な責務を、防潮水門は担うことになったのだ。
 もっと具体的に言うと、水門を閉じることで海面よりも残存湖内の水面を常時高く維持し、規定値以上に残存湖内の水位が上がった場合は真水が水門を越えて海に流れるようになっており、雪解け水や大雨などで急激に残存湖内の水位が上昇した場合は、水門を開けて一気に真水を海に流すようになっている。
 ここで一つ、気になることがある。これから先、地球温暖化が急激に進んで海面が想定外に上昇することがあると、逆に海水が水門を越えて残存湖内に流入してしまう事態も起こりうるのではないかと。考え過ぎと笑われるかもしれないが、既に南太平洋の島国では実際に海面上昇で国土の一部の水没が危惧されているところもある。それでなくても大潟村の土地の大半は海面よりも低い位置にあり、海面上昇などは決してあってはならないことなのだ。
 地球環境の悪化が収まり、平和な水辺の風景がいつまでも続くことを祈るのみである。
(文・写真/加藤隆悦)