文化遺産
No.47
横手興生病院
横手市根岸町8-21

近代文化遺産

 本稿41号、稲住温泉「浮雲」で紹介した秋田県に残る建築家白井晟一の作品である。戦後、秋田県南部ととくに縁が深かった白井氏は、昭和25年以降、稲住温泉「浮雲」を筆頭に、旧雄勝村役場、高久酒造酒蔵茶室、鷹ノ湯温泉半宵亭などを手がけたあと、昭和三七年に横手興生病院本館の建築に取り組んでいる。
 煉瓦とモルタル造りの本館が完成したのは昭和37年で、のち同40年に、町の人から「はちのす病院」と呼ばれた厨房棟が建てられた。

 白井氏はこのほかに、羽後病院や雄勝中央病院なども手がけているが、病院建築として唯一現存するのが横手興生病院である。しかし、この近代化遺産的な建築作品も解体されることが決まっているという。
 本館内部は窓がほとんどなく、竣工当時は照明を消すと中が真っ暗だったという。この写真は本館だが、隣に増築された厨房棟は、蜂の巣のようにたくさんの孔があいたファサードが最大の特徴である。
 昭和46年、横手市に院長自宅として建てられた「昨雪軒」は寺院の僧坊を思わせるもので、建築家でありながら哲学家でもあった白井氏の面目約如たるものがある。氏は昭和33年、浅草の善照寺を建築し、同36年に高村光太郎賞、第一回建築部門賞を受賞している。そしてその翌年に横手興生病院が建てられ、間をおかず、「浮雲」や興生病院の厨房棟の建築に取りかかっていたことになる。
 哲学的、思想的バックボーンをもつ建築家白井氏については、門外漢の筆者が容易に述べられるようなものではないが、秋田県で氏の業績を知る人は少ない。

(取材・構成/藤原優太郎)