文化遺産
Vol.25
「宴会列車が行く!」
秋田内陸縦貫鉄道

 秋田内陸縦貫鉄道には、貸切用のお座敷車両がある。車内は全面畳敷きと掘りごたつ風の二通りのアレンジが可能で、最大定員は40名。占有スペースに余裕を持つなら20名から30名くらいが手ごろだが、この車両の貸切料金は案外リーズナブルだ。角館〜鷹巣間を往復で利用した場合は6万5千円。20人で利用して頭割りにすれば一人当たり3250円だ。
 同区間を普通列車で往復すれば3340円だから、仲間が20人も集まればかえって安上がりだ。
 私事ながら、過日筆者が所属するグループでこのお座敷車両を利用した。メンバーの居住地がまちまちなので、利用は角館から鷹巣までの片道とし、出発地までの集合と到着地からの帰路はそれぞれ自腹で移動してもらうことにした。飲食物は各自の持ち込みだ。
 この貸切お座敷車両での“移動宴会”は、当初自分たちで想像していた以上に楽しいものになった。仲間内での「遠足気分」で話が弾み、流れる車窓風景にはほとんど関心が示されず(それは誤算だったが)、あっという間の2時間ほどの鉄道小旅行だった。
 途中列車は、阿仁マタギと比立内の間の比立内鉄橋と、笑内と萱草の間の大又川鉄橋の上で徐行して、高い鉄橋から谷間を覗き込む眺望をサービスしてくれる。他の客はいないから堂々と窓を開けて景色を楽しみ、写真に収める。
 このお座敷車両の旅には、関東や仙台などの県外在住メンバーも4名参加して、みんな大満足して帰っていった。
 山間地を走る秋田内陸縦貫鉄道は、沿線住民にとってはかけがえのない生活路線であるが、同時に、鉄道好きな人や旅行好きな人には魅力にあふれた路線でもある。その部分でのアピールが、残念ながらまだ十分ではないような気がする。
 赤字続きで存廃が常に取りざたされているが、やり方次第ではまだまだ伸び代があるのではないかと考える。この路線自体が、秋田県の貴重な観光資源であるとも言える。
 いついつまでも走り続けてほしい秋田内陸縦貫鉄道だ。
(文・写真/加藤隆悦)