文化遺産
Vol.23
「消えゆく鉄道施設・信号場」
奥羽本線 南能代信号場

 JR奥羽本線の北金岡駅と東能代駅のほぼ中間に、上下列車の行き違い施設である南能代信号場がある。
 信号場とは、駅間距離の長い単線区間で、駅以外の場所でも上下列車を行き違えるようにした施設で、外見上は駅舎とホームのない駅のようなもの。ポイントも信号も集中管理するため人員も配置していない。
 地方の幹線で全線にわたって単線で建設された当初は、駅以外の場所にも信号場を設けて上下列車を行き違いさせる必要があったが、のちに断続的に複線化が進められてくると、その複線区間で上下列車を行き違いさせられるため、信号場というものの使命はもはや終焉を迎えつつあるのではないかと思われる。存在意義があるとすれば、旅客列車、貨物列車を含めて臨時列車を大増発しなければならない時期に、信号場を利用してダイヤを組みやすくするくらいか。
 使命を終えつつある信号場は、廃止されたり、あるいは逆に、近隣住民が乗降できる「駅」に昇格されたりする。廃止になった例では奥羽本線追分駅と大久保駅の中間にあった大清水信号場、駅に昇格した例では羽越本線新屋駅と下浜駅の中間にある旧桂根信号場や羽後亀田と羽後岩谷の中間にあった旧折渡信号場などがある。
 南能代信号場のある奥羽北線区間では、秋田〜大館間で言えば5割以上の区間で複線化が進み、信号場前後の単線区間は、森岳−北金岡−東能代−鶴形間のみだ。現在のダイヤで南能代信号場が活用されているのは、写真の東能代13時47分発酒田行きの各駅停車が下り特急つがる5号に進路を譲って退避するケースを含めて一日わずか4回ほどのようだ。これとても、ダイヤをわずか調整すれば、必ずしも必要ではなくなるのではないだろうか。なにより、交換待ちのために信号場で停まっている時間がなくなれば、列車の到達時間は短縮できるというメリットもある。信号場の周囲に人家も多くはないため、駅に昇格することも考えにくい。ここも早晩、ひっそりと幕を降ろすことになるのかもしれない。
(文・写真/加藤隆悦)