文化遺産
Vol.21
「複電圧車」
E6系秋田新幹線

 鉄道の電化には多様な形態がある。電車や電気機関車のモーターは直流で動くが、そのためには交流の電源をどこかで直流に変換しなければならない。
 鉄道電化創成期は地上で直流に変換したものを架線を通して列車に送る「直流電化」だった。東京や大阪など大都市圏の鉄道は昔も今も直流電化であり、走っている電車もほとんどが直流区間専用の車両である。
 その一方で、送電効率のメリットや技術の進歩から、のちには交流のままで電気を列車に送り、車上で直流に変えて走らせる「交流電化」が、主に地方の路線で主流になってきた。ただ、それすらも単純ではない。日本に発電技術が導入された経緯から、今でも東日本は50Hz、西日本は60Hzの異なる周波数の電気がつくられている。鉄道も同様に、東日本の交流電化区間は50Hz、西日本は60Hzになっている。
 かつて夜行列車で秋田から上野に向かう時、栃木県の黒磯駅で機関車の付け替えが行われていた。あれは、黒磯駅が交流電化区間と直流電化区間の切り替え駅であったため、両区間の専用機関車に付け替える必要があったためだ。秋田を経由して青森と大阪を結んでいた特急白鳥は、交流50Hzと60Hz、それに直流の、すべての電化区間を走破するため、すべての電源方式に対応した車両になっていた。
 さて、秋田地区などのJRの在来線は交流2万ボルトで電化されているが、東北新幹線などのフル規格の新幹線は列車の高速性能を引き出すために2万5千ボルトの交流になっている。つまり、フル規格新幹線区間と在来線改良区間をまたいで走る秋田新幹線こまちは、複電圧車といって複数の電圧に対応する電気回路装置を積んでいる。
 こまちは、7両編成中、架線から電気を取り込むパンタグラフを2基搭載している。国内最高速で走る東北新幹線区間では両方のパンタグラフをあげて電気を取り込むが、最高速度が半分以下になる盛岡秋田間ではパンタグラフは1基で十分に集電が間に合うようで、残りの1基は畳んでしまう。盛岡駅では、はやぶさとの連結解放の他、パンタグラフの上げ下ろしも、見られるはずである。
(文・写真/加藤隆悦)