文化遺産
Vol.20
「地域密着鉄道」
由利高原鉄道

 秋田の第三セクター鉄道の一つである秋田内陸縦貫鉄道では、本年6月末をもって社長が交代した。前任社長は、卓抜した経営手腕を発揮して低迷する内陸線の起死回生を図ることを期待されて全国公募で選ばれた方だったが、年間赤字額を目標の範囲に収めることが出来たという成果以外では、目に見えた結果を出せなかったのではないかというのが、正直な印象だ。過疎地を走る路線だから、沿線住民の利用だけに頼らず、観光客を取り込んで乗車人員を増やすことも不可避な課題であったが、その努力の痕跡は見られなかった。
 もう一方の第三セクター鉄道である由利高原鉄道は、その点においては、相変わらず経営は苦しいものの、快進撃と言っていいような勢いがあるように感じられる。
 とにかく、鉄道の存在感を最大限にアピールし、一人でも多くの人に乗ってもらおうとする工夫や努力に並々ならないものがあるのだ。
 新型車両を導入する際には、その車両を愛知県の車両製造メーカーから由利本荘市までJR線で輸送するルートと途中の通過予定時刻を公表し、いわゆる“撮り鉄”の便宜を図った。この事自体で由利高原鉄道には直接的なメリットはないが、鉄道ファンを中心に、多くの人に由利鉄の存在をアピールすることが出来た。鉄道と、鉄道マーケティングを知っている社長だから出せたアイデアだったと思う。
 今由利鉄では、一日14往復中、日中の5往復で自転車を無料で車内に持ち込めるサービスを行っている。羽後本荘駅は駅に階段があるので利用できないが、一駅先の薬師堂駅から終点の矢島駅までの間で、どの駅でも自転車ごと列車に乗り込める。
 このことによって飛躍的に乗客が増えるとは考えづらいが、手間を惜しまず沿線住民の利便を考えてくれている鉄道であるという評価は、ぐんと高まる。そういうこつこつとした工夫や努力が、地方鉄道には欠かせないのだと思う。(写真は薬師堂駅に停車中の由利高原鉄道新型車両)
(文・写真/加藤隆悦)