文化遺産
Vol.16
「まだ夜行列車に乗れる!」
寝台電車583系

 今年3月のJRのダイヤ改正で、長年秋田県民に親しまれてきた寝台特急「あけぼの」がついに廃止になる。
 その後も秋田県内を走る寝台列車としては大阪と札幌を結ぶ「トワイライトエクスプレス」が残るが、秋田県内では停車駅が設定されていないので、実質的に「あけぼの」の廃止をもって秋田を発着する夜行列車は消滅してしまうのだ。
 しかし、秋田から寝台列車で出かける旅がまったく不可能になったわけでもない。秋田には583系寝台電車があるからだ。定期列車として常時運行しているわけではないが、秋田や青森からディズニーランドに向かう団体ツアー列車や、同じく立山黒部アルペンルートなどを目指すパッケージツアーの足として、年間かなりの回数で運転されている。
 運行が決まると新聞広告などが出るから、行先はともかくとしてもう一度夜行列車の旅を楽しみたいと思った時はチェックするといいだろう。
 583系電車は秋田市楢山の秋田車両センター(通称・秋田車両基地)に在籍しており、運用のない日は基地内の四ツ小屋駅寄りのはずれに留置されている。
 この電車が誕生したのは、東北新幹線が開通するはるか昔、大阪万博の2年前の1968年である。夜は寝台列車として、日中は通常の座席の特急列車として運行され、よく“稼ぐ”電車であったけれども、やがて訪れる新幹線時代の到来のため、活躍する期間はそれほど長くはなかった。
 電車で車齢45年と言えばかなりの古参になる。実際、同系列車両は老朽化のためにほとんどが廃車になっていて、仮に秋田の583系に不具合が生じたら、もう代わりになる車両はないはずである。たとえば県内高校野球部の甲子園出場が決まって応援列車を運行するとか、夜行列車が走る機会はあっても、「寝台列車」での旅というのはもはや風前の灯。
 寝台特急「あけぼの」も、ゴールデンウィークなどの多客期には臨時列車として走るようだが、あの車両もかなり老朽化が進んでいるので、今後何年も継続されることはないだろう。
 乗れるうちに乗っておきたい…、というのが秋田発着の寝台列車なのだ。
(文・写真/加藤隆悦)