文化遺産
Vol.13
「夜行列車の終焉」
JR奥羽本線羽後境〜大張野間

 いつかはこういう日が来ることは分かっていたけれども、ついに、寝台特急「あけぼの」が来春のダイヤ改正で廃止になるようだ。これで秋田県内の駅を発着する夜行列車は消滅する。
 廃止を惜しむ声があちこちから上がっているが、これも時代の流れというものだろう。考えてみれば夜行列車というのは、ひと昔前の“かけがえのない長距離移動手段”であった。筆者も東京で学生生活を送っていたン十年前には、夜行列車の急行「津軽」などをもっぱら愛用して秋田と東京を往復していた。あのころの上野駅は夜になると、東北、上越、北陸方面に向かう夜行列車が何本も出ていて、一日のうちで一番にぎわっていたのではなかったろうか。
 時代が移ろい、新幹線や空の便、高速バスなど、早くて快適あるいはより安価な移動手段に事欠かない今となっては、夜行列車はその使命を終えたということか。
 夜の間に移動したければ夜行バスがあるし、午前中に都内に入りたいのであれば飛行機の早い便でたいていは間に合う。企業経営の世界でよく言われる「選択と集中」に沿って考えるならば、鉄道会社としては、もはや“売れ筋商品”とは言いがたい夜行列車は廃番にして、長距離については新幹線を使ってもらいたいということなのだろう。
 夜行列車の消滅は時代のすう勢でやむを得ないことであるのだけれども、それにつけても惜しいのは、あの夜行列車ならではの“旅情”を、もう二度と味わえないということだ。
 秋田を発着する最後の夜行列車となる寝台特急「あけぼの」は、秋田駅から羽越本線を南下し、新津、長岡を経て、上越国境を越えて高崎経由で上野に向かう。夜中にふと目覚めて窓の外をうかがった時の、人々の寝静まった見知らぬ町の情景。しらじらと夜も明けて少しずつ都会らしくなっていく車窓からの眺め。終着近く、名残りを惜しむかのような車掌の車内放送。それらはまさに、“旅情”あるいは“旅愁”そのものだ。
 廃止になる前にせめてもう一度だけ「あけぼの」に乗っておかないと、なんだか悔いを残してしまいそうだ。
(文・写真/加藤隆悦)