文化遺産
Vol.12
「SL秋田こまち号」
JR奥羽本線羽後境〜大張野間

 秋田の観光を盛り立てる一大キャンペーン「秋田デスティネーションキャンペーン」の一環として、10月12〜14日の三日間、奥羽本線秋田〜横手間でSL列車が運行される。
 昨今は鉄道ブームもあって、定期的にSL列車を運行しているJRの路線や鉄道会社もあるが、今回のように短期間イベント的に運行する場合は、本番前におおむね五日ほど試運転が繰り返される。つまり、今回の場合は延べ八日間にわたって秋田県内でSL列車の走行シーンを見られることになる。
 一般には試運転に関する情報は公表されないが、熱心な鉄道ファンはどこかから情報を入手し、早々と人気の撮影スポットに駆けつけるのである。
 ちょうど一年前にも秋田地区ではSL列車の運行があったが、今回の運行で特筆すべきは、牽引される客車が“旧客”と呼ばれる茶色の年代物の車両が投入されたことだ。年配の方であれば通勤通学あるいは旅行で乗ったことがあるはずで、懐かしく思われることだろう。やはり、SLが牽くのは古い客車の方が似つかわしい。
 ただし、客車もそのままという訳にはいかない。現在の電車や客車の出入り口はほぼすべて自動ドアだが、旧客は手動。走行中でもドアを開けようとすれば開けられてしまう。昔の汽車通学の連中は、ドアを開けたままデッキにたむろして乗っていたという、今にして思えば危ない乗り方をする姿も珍しくなかった。
 今の若い人たちは、客車のドアが手動だったということを知らない人も少なくないだろう。知らないが故に、万が一の事故が発生するおそれもある。そのため、SLが牽引する旧客には、発車時に自動的にドアが閉まりロックされるように追加の工事が施されている。
 昔の客車のトイレが、“出したもの”をそのまま線路にまき散らして走る方式になっていた(だから駅に停車中はトイレを使わないのが暗黙のルールになっていた)というのも、今の人たちには想像つかないことだろう。さすがに今もそれをやるのは何かと問題があるので、イベント列車に使われる旧客はタンク式のトイレに改造されている。
 ノスタルジーもいいけれども、なにごとも昔のままというわけにはいかないのだ。
(文・写真/加藤隆悦)