文化遺産
Vol.10
「グッバイ、R1」
秋田新幹線E3系先行量産車

 このコラムで何度か触れているように、秋田新幹線は来春までに現在のE3系と呼ばれる車両からE6系という新型車両に順次置き換えられる。一斉に置き換えるのではなく、製造が進められているE6系の編成が完成するごとに一編成ずつ置き換えていくという工程表になっている。
 その象徴的な出来事が2013年7月20日にあった。「E3系量産先行車R1編成ラストラン」である。E3系として最初に誕生した編成(R1編成)がこの日午後0時57分に秋田駅を発車する「こまち36号」の運転を最後に引退するというものだ。
 E3系は全部で26編成製造された。その第一号編成であるR1編成は、一見しただけでは他の編成と同じように見えるが、この編成だけ先頭車の前面がやや“細面”で、ヘッドライトが運転台下と運転台上の2カ所に配置されている点が、あとに続く編成と異なっている。
 R1編成には試作車的な意味合いがあって、試運転などを重ねた結果で二号編成以降で改良が加えられたということなのだろう。
 耐用年数を迎えた鉄道車両は、人知れず引退していくことのほうが多いが、E3系R1編成はメモリアルな車両でもあることから、JRでも早くから引退日を広く告知し、当日は秋田駅新幹線ホームで引退セレモニーが行われ、沿線にもR1の最後の勇姿をカメラに収めるべく、多くの鉄道ファンや一般市民が繰り出した。古豪の引退を見届ける最後の花道の様相であった。
 ところで、このR1編成の製造は1995年だから、今まで18年間にわたって秋田と東京のあいだを走り続けてきたことになる(秋田新幹線は1997年の開業だが、それまでの2年は東北新幹線での試運転に充てられていた)。乗用車だったら18年も乗り続けるのはきわめて稀だろうし、仮にあったとしても相当のポンコツになっているだろう。それを考えると、R1編成には改めて、「ほんとうに長い間ご苦労様」と声をかけてやりたくもなろうというものだ。
(文・写真/加藤隆悦)