文化遺産
Vol.7
「車窓を楽しむ電車旅」
701系セミクロスシート車

 秋田県内のJRの電化路線を走る普通列車はすべて701系という電車で統一されている(未電化区間に乗り入れる気動車列車を除いて)。
 701系の秋田地区への投入は1993年6月だそうだから、今年でちょうど20年になる。それまでは電気機関車の牽く客車列車だったから、701系の登場で秋田の鉄道シーンもちょっと“都会っぽく”なった、とは言える。性能の向上でスピードアップが図られたのも大いに歓迎したいところ。
 しかしそれと同時に、701系には“イマイチ”という評価もある。製造コスト削減のためか、窓にはシェードもカーテンもない。スモークガラスにしているとは言え、強い陽光が差し込むと遮るものがないのだ。それに、客席と乗降ドアを仕切るデッキがないため、冬場は駅に着いて人が乗り降りするたびに車内に冷気が吹き込む。これは実際、設計ミスと言ってもいいほどの深刻な問題だと思う。今の時代、一般家庭ですら風除室というものを備えているのに、これではまるで、リビングリームと外をドア一枚で隔てているのと同じことだから。
 もう一つ、都会の通勤電車並みに窓を背にして座るロングシートの座席配列に不満を漏らす向きもある。筆者などは車窓に流れる景色を眺めながら鉄道旅を楽しみたいほうだし、できればそうやって車窓風景を眺めながらビールを飲んだり駅弁を頬張ったりしたい。のどかな秋田の風土なのだから、列車で移動する時はそれくらいはやりたい。
 そういう鉄道旅の楽しみを奪ったのが701系でもあるわけだ。
 秋田・新庄間のいわゆる奥羽南線には、片側ロングシート、片側ボックスシートに改造されたセミクロスシートと呼ばれる座席配置の701系が3編成あるらしい。
 編成本数が少ないために出会える機会はとても少ないけれども、駅で列車を待っていて、入ってきた電車がこのセミクロスシート車だったら、急いでKIOSKで缶ビールを買って、大いに車窓風景を楽しみながら痛飲するべきである。滅多に体験できない僥倖なのだから。
(文・写真/加藤隆悦)