文化遺産
Vol.5
「保存車両」
J小坂鉄道 キハ2100形

 奥羽本線大館駅と小坂鉱山を結んでいた小坂鉄道(小坂製錬小坂線)は、今から5年前の2008年3月に最後の貨物輸送を終え、事実上の廃線に至った。
 小坂鉄道では1994年(平成6年)秋までは旅客も運んでいて、その旅客営業廃止まで走っていたディーゼルカー・キハ2100形が、小坂町の総合博物館郷土館で保存され屋外展示されている。
 遠目に見れば古くささの感じられない近代的な好ましいデザインの鉄道車両だ。“遠目”と断り書きをしたのは、屋外展示が始まってから長い年月が過ぎ、風雪にさらされて車体の塗装も剥げかかって痛々しい姿になっているからだ。
 鉄道車両に限らないことだが、動かすことも使うこともなく放置していると傷みが早まるもののようである。県内では、湯沢市の公園に展示されていた羽後交通雄勝線の車両や、五城目町の小学校校庭に展示されていた秋田中央交通軌道線の車両などが、次第に傷みがひどくなり、危険すら伴うということで撤去された経緯がある。小坂町のキハ2100も早晩同じような運命を辿ることになるのだろうか。
 筆者が宝くじでも当てたら、お金をポンと出して、車両の化粧直しをしてもらい、その上で耐候処理をしてもらうか、展示場に屋根でもかけてもらいたいところである。
 廃線になった鉄道路線は一般に、レールをはがされて他の用地に転用されたり深い茂みに還っていくだけだが、小坂鉄道の場合は今のところ、観光への再活用を模索してレールはそのままになっている。ちょっと手入れをすれば再び列車を走らせることも不可能ではないのだ。
 小坂町には明治の芝居小屋・康楽館もあるし、十和田湖も控えている。単にそれらへのアクセス路線としてだけでなく、鉄道自体も観光資源的な位置づけで再構築すれば、魅力的な観光ゾーンになる可能性も秘めているのだ。
 きれいに化粧直しされたキハ2100がふたたび小坂鉄道のレールを疾走する日がくることを、夢見ていたい。
(文・写真/加藤隆悦)