随想

“ふ”健康的生活

あゆかわのぼる

 1年くらい前から、日中でも原稿が書けるようになったのと、18年続いた信用調査会社の週刊情報誌の連載が終わったせいで、朝3時過ぎに起きる事はなくなったが、それでも4時半頃には床を離れる。起きて台所に行き、冷蔵庫の中の中仙産の杜仲茶をコップで一杯ゴクリと飲む。これで全身が目覚める。それから、ウォーミングアップ替りに迷惑メール消し、やがて原稿を書き始める。約3時間。7時過ぎにシャワーを浴びて食卓につき、コップ一杯の冷たい牛乳。その日、外に出掛ける用事がなく、しかも充実した朝仕事だったなぁと思えば、ご褒美として350mlの缶ビール1個飲む。たまに500ml。
 朝食は味噌汁とおひたしと桧山納豆、それに小さなボダコ一切れにニンニク味噌漬2個で、御飯は小さめの茶碗に7分目2杯。ポップ茶を一杯飲んで、30分ほど時間をかけた食事を終え、歯を磨いてトイレで読書しばし。仕事部屋に入り、食事前に続いての作業。または小説を読む。
 もちろん仕事に関係のある資料や本、雑誌などを読む事が多いが、大沢在昌が『新宿鮫』で直木賞を受賞したときに読んでから嵌まったのと逢坂剛のスペインものに夢中になって、二人の作品の虜になり、しばらく休筆していてこの間復活した横山秀夫は最初から。最近はそれに佐々木譲と今野敏が加わって、警察小説を読み耽る。
 10時と3時にはまたポップ茶が出る。血糖値や血圧を下げるという友人の勧めで数年前から飲み始めているが、効果の有無は扨置いてこれが、まことに苦い。
 昼食はうちでも外でもほとんど麺類。うどんは羽後町のあぐりこうどん、大内のきぬさや麺、能代うどんに稲庭うどん。このうち二種類くらいはいつでもである。ラーメンは、仕事先では美味しい所で食べる。それはいつか紹介した。自宅で食べるのはほとんどスーパーから買うが、3.11以降は被災地支援で、時々岩手県洋野町の「ホヤラーメン」や野田村の「塩ラーメン」を取り寄せて食べる。友人知人にお裾分けしたりもする。
 自宅で麺を食べるときは、小さなグラスで焼酎のロックを一杯、じっくり時間を掛けて楽しむ事もある。そんなときは午後は仕事にならないので、本を枕にウツラウツラして時を過ごし、夕方を迎える。午後に原稿を書く事はよほど尻に火が付いていない限りしない。
 縁側にルームランナーがある。運動嫌いで、体を動かすのがたいぎ。いつだったか、携帯電話についている万歩計をみたら300歩100メートルと出ていて肝を冷やした。10年くらい前に糖尿病と高血圧を宣告された。母と次兄は糖尿病と合併症で亡くなり、三兄は数年前、脳梗塞で倒れた。ルームランナーは、主治医には有効に使っている、と言っているが、月に十数回、併せて1時間程度。ほとんど夕方、ちょっと上がって数分歩くだけで、そのままシャワー。済ませて晩酌。それが4時53分。民放のニュースが始まる時間。飲むのは焼酎かウイスキー。日本酒が好きなのだが、糖尿病にはよくないと聞かされてやめた。焼酎歴は40年余り。最初に飲んだのが福岡産の胡麻祥酎「紅乙女」。健康にもよいと教えられて量が増えた。健康と言えばきくいも焼酎の「太陽の花」は糖尿病患者に優しいらしいのでこれも手放さない。

 

 つまみは贅沢を言わない。ホッケの炙ったやつがあれば大満足。血の流れをよくすると聞いて、スライスした生の玉葱を毎晩4分の1食べる。梅干し1個。由利本荘市大内でグラパラリーフという中南米産の植物を栽培していて、これが血糖値を下げるという。当然マークした。
 日本酒とビールは家でほとんど飲まない。焼酎はその代わり、いつも5〜6種類食卓の手の届く所に置いてその日の気分で選んで飲む。因みに甲類は飲まない。井戸水が美味しいのに蒸留水を飲む事はない。
 ウイスキーはトリス。今から50年余り前、初めて飲んだウイスキーがそれで、この世にこんなに美味い酒があったのか、と感動して以来飲み続けている。そのメーカーが、開煬窒笆坂昭如など、小説を読み耽り、尊敬する作家をCMに使っていたのでのめり込んだ。4リットルのペットボトル1本買うと1ヶ月ギリギリ持つ。ビールもそこ。
 晩酌の量は一応決めておく。ウイスキーは水割りダブルで5杯、焼酎は中位のグラスでロック3杯。もちろん、これは下限。晩酌といえども疎かにしない主義。
 1年くらい前から、“家庭内二次会”を始めた。下限の量に達したら場所を居間に移し、今度は少しグレードの高い、焼酎なら720mlで2,000円くらいのやつ、ウイスキーなら安めのスコッチに代えて、テレビを見ながらゆっくり飲る。そのうち眠くなるので、寝室に向かう。8時半過ぎだ。布団に入れば即、白河夜船。夜中に2度ほどトイレに起きる事もある。トシだなぁ。
 ビールは朝ちょっと飲むが、日本酒はほとんど家では飲まない。しかし、好きだから、なにかの会やパーティーで最初に口にすると、それが最後まで、という事がよくある。たぶん、普段飲まない反作用なのだ。
 いつだったか、パーティー、二次会、その流れで立ち寄った洒落た居酒屋に、私が名付けた酒が置いてあって720ml瓶1本をペロリと空けてしまった。
 あぁ、これが人生。
 “酒なくて何の己が桜かな”。