文化遺産
Vol.35
ポートタワー・セリオン[ぽーとたわー・せりおん]
秋田市土崎港

 1994年に秋田港の岸壁に「ポートタワー・セリオン」が完成し、高さ100mの展望台が800円の入場料でオープンしたとき、正直なところ筆者は、どれだけのお客を獲得できるだろうかと、疑問に思ったことがある。
 絶景とか風光明媚とかいうのであればそれを見させてもらうのに応分の対価を払うのは当然だが、セリオン展望台からの眺めは、どちらかと言えば“凡庸”である。お金を払ってまで昇りたくなる魅力があるかどうか…。
 案の定、わずか2年後には運営会社の経営悪化が報じられるようになり、入場料を半額に値下げしたがそれも焼け石に水。金額の問題ではなく、“有料”であるということ自体に人々がひっかかりを覚えた結果であろう。
 その後紆余曲折があって、2007年にはついに無料になった。これは大英断であり、かつ正しい判断であったと思う。現金なことだが、その年の入場者は歴代2位の33万人超。前年の実に6倍以上にも上った。この種の施設の存在意義の一つは“賑わい創出”であろうから、人に集ってもらわないことには意味がないのだ。
 秋田港湾事務所のホームページには、秋田港をはじめとした県内の港への大型クルーズ船の寄港情報が詳細に掲載されている。今年も竿燈の時期を中心に秋田港は大型客船で賑わいそうだ。そんな大型客船の入出港風景をセリオンの展望台から眺めるのは、なんとも楽しいひとときである。
 見晴らしのいい展望台から大型客船を眺めて、自分もいつかあんな船に乗って優雅なクルーズを楽しんでみたいと夢想してみたり、水平線に沈みゆく夕日にうっとりしてみたり、雪が降り始めてうっすらと白くなっていく町並みを見下ろしたりするのには、やはりお金をとらない展望台が似つかわしい。
 維持費の捻出のためにお客から金をとるのは本末転倒だ。お金をとりたければ、お客にはそれに見合う十二分な満足感が提供されなければならない。
(文・写真/加藤隆悦)