文化遺産
Vol.31
十和田湖西岸[とわだこせいがん]
小坂町十和田湖大川岱

 秋田の景勝地や観光地には隣県にまたがるものがいくつかある。鳥海山には山形側があるし、栗駒山は宮城県、八幡平は岩手県、十和田湖や白神山地は青森県など。
 そして、しばしば隣県のほうのPRが上手なので、いきおい、秋田側の印象が薄いものになってしまう。有体に言ってしまえば、勉強不足、努力不足の感は否めない。
 試しに、秋田県側の白神山地の一角である「岳岱」というキーワードで県の観光情報公式サイトで検索してみよう。7件がヒットするのだがその情報はほとんど重複していて、しかも3件については写真すら掲示されていない。調達が困難な写真とも思えないのだが。これで本当に観光に力を入れていこうとしている県なのか…。
 十和田湖は、域内の半分近くが秋田県に属している。しかし、“おいしい”ところは全部青森県に持っていかれているような感もある。発荷峠は秋田県だが、休屋に入るすぐ手前に県境があり、一番にぎわい一番お金の落ちる場所が青森県側になってしまうのだ。
 そんな青森県側の休屋地区のにぎわいに比べると、秋田県側の西岸一帯、いくつかの宿泊施設がある大川岱地区などは、あまりにも寂しい。なんでもかんでもにぎやかであればいいというものでもないと思うが、何かもう一段の“生かし方”があるのではないだろうか。
 先年筆者は、西岸の一角にある十和田ホテルに泊まった。このホテル自体も歴史的由緒のある魅力的な宿なのだが、私が楽しみにしていたのは、湖の向こう側から朝日が昇る瞬間だった。
 神々しいほどの絶景!
 湖の西岸ならではの至福のときであった。休屋地区の宿ではこんな贅沢は味わえない。秋田にはいいものが山ほどある。ほんとうにそう思うのだけど…。
(文・写真/加藤隆悦)