文化遺産
Vol.28
白瀑[しらたき]
山本郡八峰町八森

 八峰町のA温泉ホテルは、施設全体を近代的なホテル造りに一新して新装オープンした。未だ不景気風が吹きすさぶ東北で、この時期の設備投資とは思いきったものだと思うのだが、聞けば、東北新幹線の青森延伸にともなうシャワー効果を大いに期待したものだったという。
「ところが、新幹線が開通してすぐの震災と原発事故で客足がパッタリと途絶えて、もくろみは見事にはずれました」と、支配人は苦笑いをしていた。
 思えば、かつて観光振興の願いも込めて旧八森町と青森県西目屋村を結ぶ青秋林道なるものの建設が計画され、しかしそれは自然破壊につながるものとして喧々囂々の議論の末、建設は中止となり、結果的にそれが白神山地の世界自然遺産登録につながったという経緯がある。
 好むと好まざるとにかかわらず、人は自然に影響を与え、自然は人に影響を与えるものである。あるいは、白神山地の世界自然遺産への登録が、人と自然との関わり方を改めて教えてくれたと、言えるのかもしれない。
 A温泉ホテルから車で5分ほどのところの山裾に白瀑(しらたき)神社があり、その社殿の背後に落差17メートルの白瀑がある。毎年8月1日に「みこしの滝浴び」が行われることでよく知られた滝だ。祭礼の日は大勢の見物客が繰り出すが、それ以外の時は訪れる人もまばら。しかし逆にその”忘れられた空間“ぶりが、人々にほっこりとした癒しのひとときを与えるようでもある。
 A温泉ホテルにはぜひとも繁盛してほしいが、同時に、白瀑のあたりには余り大勢の人には繰り出してほしくないような、想いもある。思い立った日にふらりと白瀑を訪れ、そのついでにホテルの風呂にも入るとか、あるいは逆に、ホテルへの日帰り温泉ドライブのついでに白瀑も見てみるとか、そんな、さらりとしたつきあい方をしてほしいものだ。
(文・写真/加藤隆悦)