文化遺産
Vol.26
秋田内陸線大又川鉄橋[あきたないりくせんおおまたかわてっきょう]
北秋田市阿仁萱草

 秋田内陸縦貫鉄道の萱草(かやくさ)駅と笑内(おかしない)駅のあいだにある大又川鉄橋は、全国の鉄道ファンによく知られた人気の撮影スポットである。今回ご覧いただく写真では河原まで下りて列車を見上げて撮影しているが、線路とほぼ同じ高さのところを並行して国道105号が走っていて、その国道の橋の上から、鉄橋を渡る列車を撮るのが定番中の定番である。
 列車の乗客の目線から見ると深い峡谷を渡る地点となり、車窓からのスペクタクルは比立内駅近くの比立内鉄橋とともに内陸線の二大白眉である。観光シーズンになると列車は鉄橋の上で徐行サービスをし、乗客は歓声をあげながら峡谷美を堪能する。これからの紅葉シーズン、そして水墨画の世界さながらとなる雪の季節には、多くの観光客が内陸線沿線の自然風景の魅力の虜になることだろう。
 内陸線は慢性的な赤字で経営が大変なようだが、私は逆にそれが不思議でならない。全国的に見てもこれだけの風光明媚な沿線風景を持つ鉄道路線は少なく、鉄道ファンのみならず、もっともっと多くの旅行ファンや観光客に知られてよいはずだ。まだまだPRが足りないのではないか。秋田の人間からすると、自然の風景なんて「どこにでも転がっているもの」と考えがちで、それが観光資源になるとはなかなか思いつかない。もしかしたら、人工的な博物館や資料館などよりも、内陸線の車窓風景のほうが観光客にはよほど魅力的かもしれないのに。
 内陸線の前身である国鉄阿仁合線は、鷹巣から阿仁合までは戦前の昭和11年に開通しているが、そこから先、比立内までは戦後の昭和38年の開通で意外に遅い。当時とすればこの大又川鉄橋の建設も大工事であったことだろう。廃線などにはしないで、永く楽しめる車窓風景であってほしいものだ。
(文・写真/加藤隆悦)