文化遺産
Vol.25
岩瀬川渓流[岩瀬川渓流]
大館市岩瀬

 絶景ポイントというのは、思いがけない場所にあるものだ。
 厳密に言えば、多くの観光客が押し寄せる著名な絶景ポイントでも、かつてはほとんどすべてが”思いがけない場所“ であったはずだ。秋田県で言えば、昭和44年の旧八幡平有料道路の開通、昭和45年の旧大桟橋有料道路の開通を待たなければ、八幡平山頂域の雄大な眺め、男鹿半島西海岸の絶景などはおいそれと愛でることはできなかった。
 地域振興や観光開発の名目でアクセス環境が整えられていくと、相対的に”思いがけない場所“ というものも少なくなってくる。
 その意味では、大館市の田代岳山麓に位置する岩瀬川渓流は、当面(半永久的?)は”思いがけない場所“であり続けるだろう。渓流沿いのいくつかの滝の周辺などを観光スポットとして整備しようとした形跡は残るものの、実際に訪れる人はそう多くはなさそうだ。情報としても人の耳目に触れることは多くはなく、何かの機会にこの渓流を知ることになったら、「こんなところにこんな美しい渓流があったのか」と、驚くことになるだろう。
 今回写真でご覧いただく「三階の滝」などは、類例の少ない壮観で清冽な眺めを見せてくれる。紅葉のころなどはいっそう艶やかなことだろう。
 この上流にある「五色の滝」もかなり見応えのある滝なので、(滝の好きな人なら特に)わざわざ出かけていっても無駄足にはならないだろう。五色の滝は、林道の路肩に車を停めて、少し斜面を下ったところに展望台がある。そこからさらに下方のビューポイントに向かって、近年の設置と思われる頑丈な鉄製の階段が据え付けてあった。県内の滝見の展望台としてはまれに見る立派なものだ。訪れる人も多くない滝ではあるが、この滝の眺めを大切にしたいと願う関係者の心意気が伝わってくるようであった。
(文・写真/加藤隆悦)