文化遺産
Vol.23
五能線・小入川鉄橋[ごのうせん・こいりかわてっきょう]
八峰町八森

 ようやく東北新幹線も青森まで全通し、今年の東北(特に北東北)は、例年にない観光ブームが沸き上がるはずであった。その矢先の大震災、そして原発事故であり、東北の観光、経済、生活者の一人ひとりが、大きな打撃を受けた。
 線路に直接的な被害を受けた太平洋側の線区と違って、日本海側の鉄道の被害は軽微なもので、列車は走らせようと思えばいくらでも走らせられそうであったけれども、物流が途絶えたためにディーゼルカーに積む燃料も手配できなくなり、長い期間運休せざるを得なくなったのである。
 地域の人たちの生活の足が奪われ、域外からは旅行したくてもできない状態が続いた。
 秋田と青森の日本海沿いを走る五能線は、JR東日本管内でも有数の観光路線だ。特別に製造された車両を使って観光列車を走らせ、専用のパンフレットも大量に配布されている。鉄道会社や地元の力の入れようが分かるし、実際の需要も旺盛ということなのだろう。
 その五能線をはじめ、東北地方の鉄道路線のほとんどが運行を再開できたのは喜ばしいことだが、一方で、五能線とは反対側の太平洋沿岸を走る三セクの三陸鉄道は、津波で甚大な被害を受けて、鉄道としての存続自体が危ぶまれている。
 海沿いを走る鉄道にはロマンがあり、車窓の眺めは旅人の心を癒すが、大きなリスクを内包していることも忘れてはならないだろう。五能線でも、昭和40年代に、波打ち際を走る区間で路盤が波にさらわれ蒸気機関車が転覆するという事故が起きている。今は少しでも風が強いと用心して運休にするという措置がとられていて、安全には相当の神経が配られているようだが。
 願わくば自然はこれ以上私たちを苦しめることなく、その深い懐で、私たちを癒し続ける存在であってほしい。
(文・写真/加藤隆悦)