文化遺産
Vol.21
道川大滝[みちかわおおたき]
秋田市上新城

 秋田市の北東の郊外の、市街地からもさほど離れていないところに、市が整備する大滝山自然公園がある。公園と言っても、特に何か充実した設備があるわけではなく、田舎ならどこにもありそうな普通の里山のたたずまいだ。
 しかし、その“まったり感” はなかなか悪くなく、あたたかい季節であれば、気晴らしの近場ドライブ、ピクニックのスポットとして覚えておいてもいいだろう。
 公園の入口には日帰り専門の「大滝山温泉」があり、我が家でも散歩と温泉浴を兼ねてこの辺りまで足を延ばすことがある。
 冬になると公園内は除雪をしないので、温泉のところでクルマは行き止まりとなる。オフロード車や、かんじき或いはクロスカントリースキーを履けば、その先に進むことも不可能ではないが、低山とはいえ雪山に変わりはなく、くれぐれも無茶はされないようにお願いしておきたい。
 ところが私には、「無茶をする友人」がいるのだ。ある日も、彼の運転する4WD車に乗って温泉の前までたどり着くと、「行けるところまで行ってみよう」と、言い出す。軽の4WDは、深い雪の上を泳ぐようにして先に進む。いよいよ雪も深くなってきて、これ以上の前進は断念せざるを得ないところまで来た時、幽かに滝の流れる音が聞こえてきた。大滝山自然公園のシンボル的存在・道川大滝だ。
 せっかくここまで来て、真冬の道川大滝の写真を撮らないで帰る手はない。でもクルマはもう先に進めない。しかたない、クルマを降りて徒歩で(何も準備していないので)雪
を“漕いで” 前進するしかない。
 八甲田山の教訓も虚しく、人はしばしば雪山で無謀な前進を試みるものだ。
 無謀な雪中行軍のお陰で、滅多に撮れない凍った滝を撮ることは出来たけれども、皆さんもくれぐれも無茶はなさらないように。
(文・写真/加藤隆悦)