文化遺産
Vol.18
秋田内陸線小又川鉄橋[あきたないりくせんこまたがわてっきょう]
北秋田市阿仁前田

 秋田内陸縦貫鉄道の阿仁前田駅を発車した下り角館方面行き列車は、すぐに緩い弧を描く長い鉄橋を渡る。
 下を流れるのは、森吉山北麓に降る雨や雪を一手に引き受ける小又川。下流川から鉄橋方向にカメラを向けると、晴れた日には正面奥に森吉山の山頂も一望でき、変化に富んだ風景の中を走るローカル線として鉄道ファンに人気の内陸線沿線でも、とりわけ人気の高い撮影スポットの一つになっている。
 一見すれば、平和でのどかな、好ましい田舎の風景であるけれども、しかし自然のいたずらは恐ろしいもので、平成19年の9月には、大雨でこの川が氾濫し、阿仁前田地区の多くの家屋が一階部分が水没するほどの大洪水に見舞われた。周辺地区の中でも特に阿仁前田地区は、南から流れてきた阿仁川と小又川の合流地点にあるため、ことさら被害は甚大であったようだ。地区内で商売をしていた人たちの中には、洪水被害の復旧の負担があまりに大きすぎて、商売の再開を断念したところもあったという。
 現在建設中の森吉山ダムがもしこの時点で完成していたら、被害は最小限に食い止められ
た可能性もあり、わずか数年“時間差” が、悔やんでも悔やみきれないものになってしまった。
 願わくば、災禍に遭われた阿仁前田の皆さん(及び周辺地区の皆さん)の心労が一日も早く癒えて、元の、人と自然が寄り添った平和で穏やかな日々を取り戻していただきたいものである。
 小又川の上流域には、桃洞渓谷や小又峡など、秋田が誇るべき優れた自然探訪スポットがある。秋田からも都会からも、それらの渓谷美を堪能すべく多くの人々が森吉山麓には訪れる。その森吉山麓の水環境と人とは、やはり“友好的”な関係であることが、望ましいのだ。
(文・写真/加藤隆悦)