文化遺産
Vol.16
千秋公園お堀[せんしゅうこうえんおほり]
秋田市千秋明徳町

 かつて、千秋公園(秋田市)のお堀には貸しボートが浮かび、親子連れや若者のカップルがボート遊びに興じていた。それがなぜ今は存在しないのだろうと、ふと考えてみた。「今どきボート遊びなど流行らない」とか、「昔と違って人の流れが変わってしまったので利用者は期待できないだろう」とか、いろいろの推論は出来ると思う。それももっともだとは思うけれども、ただ、たとえば、あれだけ娯楽の選択肢が多く、あとからあとから多様なレジャースポットが出てくる東京であっても、井の頭公園のボート場は相変わらず人気の行楽スポットであり続けている。水辺にのんびりとボートを浮かべて遊ぶという休日の過ごし方は、決して時代遅れではないのだ。
 お堀の周辺を含む秋田市中央街区は、かつてのにぎわいからは考えられないほど寂れてしまっている。多様な商業施設が郊外に多く誕生し、中央街区に人の足が向く機会が少なくなったという現実はあろうが、人が来なくなったから貸しボートも必要なくなったのか、貸しボートのようなささやかな庶民の楽しみをなくしたから人が集まらなくなったのかと考えると、ヒヨコが先かタマゴが先かの議論になってきそうである。
 井の頭公園では、しばしばフリーマーケットが開かれ、大道芸やストリートライブなども熱演し、それらを楽しみに多くの人が集まってきているという。にぎわいづくりとはそういうことなのではないだろうか。ほんとうに必要があるのであれば大きな“ハコ“ を新規につくるのも結構だが、一番大事なのは、「人々が集いたくなる場所づくり」なのだと思う。
 人々が中央街区に戻ってきたら貸しボートを再開しようという発想ではなく、貸しボートの再開をにぎわい復活の呼び水にするような、そういう発想があってもいいのではないかと思うのだが。
(文・写真/加藤隆悦)