文化遺産
Vol.15
岩見峡[いわみきょう]
秋田市河辺岩見鵜養

 どこかに逃げ込んで涼まずにはいられないような猛暑の日が、ひと夏のあいだには何日かある。そんなときの”逃げ込み先“ として私がキープしている場所の一つが、旧河辺町に属する岩見峡だ。
 秋田駅東口からだと車で約40分。地理的に袋小路のような場所にあるためか、訪れる人はそれほど多くないというか、存在そのものを知らない人も多いようだが、県都中心部からそう遠くないところにこれだけの「涼みスポット」があるというのはありがたいことである。
 流れる川は大又川。流量は多くはなく、流れも穏やかなものだが、岩盤地帯であるため、ところどころで流れと岩とが拮抗し、「舟作」、「伏伸の滝(写真)」、「殿淵」といった景観ポイントをつくっている。あたりは深い木立につつまれ、地面まで陽が射し込むことも稀。絶好の納涼スポットなのだ。
 ところで、鵜養(うやしない)集落から先、岩見峡へは砂利道の田沢スーパー林道を少し走る。この「スーパー林道」、地図上では峠を越えて旧西木村桧木内まで抜けられることになっているのだが、沿道は崩落のメッカで、「復旧工事が完了して車が通れるようになった」という話は、ついぞ聞いたことがない。費用対効果の問題なのか、復旧工事は断念して事実上廃道同然としているところなのだろう。
 それならば、いっそ地図からも抹消してほしいものである。地図にある限りは「もしや通れるかもしれない」と、(私を含めた)オフロード好きは、行けるところまで行ってみようと思ってしまうのだ。
 危険な山道で冷や汗をかくよりは、渓流沿いの木陰で涼んでいたほうが、精神衛生上もずっと好ましいようである。
(文・写真/加藤隆悦)