文化遺産
Vol.14
真瀬渓谷[ませけいこく]
八峰町八森三十釜

 中型バス一台分のアマチュアカメラマンの参加者を集めて深浦町の十二湖に撮影ツアーに出かけたことがあったが、その日はあいにく小雨に降られてしまっていささか盛り上がりに欠ける撮影会になってしまった。
 雨降りになってしまったのは私の責任ではないけれども、そのツアーのインストラクターだった私は、なんだか針のムシロに座らせられているような気分になってしまい、どうしたら参加者の機嫌をとれるかと思案していた。
 そうして思いついたのが、真瀬渓谷への寄り道であった。自分の認識としては、目を見張るほどの素晴らしい景観の撮影スポットでもないと思っていたのだが、案に相違して、おそるおそる現地に案内してみると、参加者からは歓声が上がるほどの喜ばれようであった。「十二湖よりずっといい」と、(私への)皮肉まじりともとれる感想も聞かれた。
 観光スポットというほどの派手さはないし、ハイキングコースというほどのスケールでもないから、真瀬渓谷が人々の耳目を集める機会は少ないのかもしれない。逆にその“ひっそり感” が、参加者に好感を持たれたというところだろうか。
 真瀬渓谷は、白神山地周辺でも登山者の多い「二ツ森」に通じる青秋林道の入口にある。ご存知のように、青秋林道は白神山地を貫いて秋田と青森を結ぶ観光ルートとして計画された。結果的にそれは自然保護の観点から計画中止に追い込まれ、やがて白神山地はユネスコの世界遺産に認定されることになるのだが、計画中止運動が巻き起こる中で青秋林道の工事はギリギリのところまで進められ、二ツ森直下で、ついに永久的に建設工事はストップすることになった。全面舗装でよく整備されたその青秋林道のおかげで二ツ森が初心者でも登りやすい山になったというのは、いささか皮肉めいた話ではある。
(文・写真/加藤隆悦)