文化遺産
Vol.12
安の滝[やすのたき]
北秋田市阿仁打当

 行こうと思えばいつでも行けるという油断から、結局はしばらく足が遠ざかってしまうということが、よくある。
 森吉山麓の「安の滝」もそうだ。秋田を代表する名瀑の一つだが、「消えてなくなるわけでもなし」と、かなりの間ご無沙汰を決め込んでいた。昨年久しぶりに出かけてみたのだが、たいへん驚いたことは、非常に多くのカメラマンが滝の前に陣取っていたことだ。
 三脚を立て、光線の加減が良くなる瞬間まで粘っている。後から来た者は、三脚を立てる場所が空くまで待機していなければならない。まさに、『行列のできる滝』だ。
 駐車場に停められたクルマのナンバーから察するに、彼らの多くは県外から来ている。「こちらはいつでも行ける」と呑気な考えでいるうちに、安の滝は全国のカメラマンの人気者になっていたのだ。
 安の滝へは、国道105号を秋田内陸線比立内駅付近で分岐し、舗装路を12キロほど走ったのち、未舗装のたいへんな悪路の山道をさらに5キロ走り、そこから渓流伝いに徒歩で小一時間。「行こうと思えばいつでも」とは書いたが、実はけっこうたどり着くまでたいへん。午後から出かけたのでは滝の前まで行くのに夕方近くになってしまいかねない。それほどの到達難度の高い場所にありながら、なぜにこれほどまで安の滝は人を惹きつけるのだろう。
 写真を見ただけでもこの滝の美しさは誰にも理解できると思うが、やはり実物を見るとまるで迫力が違う。はるばるやってきたカメラマンたちも、自分なりの写真作品におさめるのはもちろんのこと、おそらくは、しばし息をのんで安の滝に見入っているのだろう。秋田の我々はいつでも行けるのだから、たびたび「会いに行きたい」滝である。
(文・写真/加藤隆悦)