文化遺産
Vol.11
大川端帯状近隣公園[おおかわばたおびじょうきんりんこうえん]
秋田市新屋

 国道7号秋田南バイパスの開通以前、秋田市から日本海沿いに南下するときは、茨島交差点から秋田大橋を渡り新屋市街地を抜けるルートを辿るしかなかった。
 当時、クルマが新屋の秋田西中学校あたりにさしかかると、なにやら異様な臭気が鼻をついてきた。臭気は、旧国道7号の下を斜めに横切る大川から漂っていた。大川は羽越線新屋駅の東側にあったパルプ工場の排水路として使われており、その工場排水が匂いの元であった。
 臭気を放つ工場排水の“ 垂れ流し“ など、今の時代であれば到底許されることではなかっただろうが、ほんの少し前の日本では、どこでも曖昧にされてきたことではある。
 そのパルプ工場も閉鎖になり、大川が排水路の役目を終えたことに合わせて、この新屋市街地を縦断する細長い水路は、親水公園として改
修されることになった。一部を暗渠化し、その上に人工的にせせらぎをつくって安全に水と親しめるようにするなど、秋田の公園としてはとてもよく整備された部類と言えよう。いわば、住民を悩ませる“ 負の遺産“ だったものが、地域の憩いの場として180度生まれ変わったのだ。
 同時に、すべてを暗渠化してしまうのではなく水路としての景観を残すことで、パルプ工場の“企業城下町“ 的な意味あいもあった新屋地区の、貴重な“歴史遺産“ を残すことにもなったと言えるだろう。
 環境省の事業に「かおり風景100選選定」というものがある。この公園整備は、それには該当しないものの、地域に漂っていた芳しくない臭気がきれいに排除されたということだけでも、大いに評価していいのではないだろうか。
 ここは岸辺の桜並木も見事で、知る人ぞ知る桜の名所にもなっている。
(文・写真/加藤隆悦)