文化遺産
Vol.10
関田円形分水工[せきでんえんけいぶんすいこう]
美郷町六郷

 一見するとそれは、公園に誂えられた噴水、あるいは“ 水のモニュメント“ といったもののようにも思われる。人の琴線というものなのか、一定の法則性が感じられる水の流れには、人はしばしば見入ってしまう。真ん中であふれかえる奔流、周囲の無数の穴からの噴流…。
 この場所は、今は小公園風に整備されているが、もちろん、これは噴水やモニュメントとして鑑賞してもらうことを目的に造られたものではない。周辺の農地に対して、農地面積に比例させて平等になるように水を配分させる、ある意味では画期的な発明物なのだ。
 丸子川からの取水を一旦地中のパイプを通して円筒状の貯水槽に引き、周囲にあけられた180の穴からあふれた水を7本の堰に分けて流してやる。たとえば、全農地面積中2割にあたる面積の農地に向かう堰には、36の穴からあふれた水を分配すればいいことになる。きわめて公正で、合理的な方法だ。
 このような近代的な分水方法が発明される以前は、時間で区切って水を分け合ったり、あるいは、水の奪い合いで流血事件になることも珍しくなかったのだという。
 してみると、この円形分水工という施設は、やはり、農村に平和をもたらした画期的な発明だったと断言してもいいだろう。
 ここは六郷扇状地の扇頂部。扇状地に広がるすべての農地に、過不足なく、平等に均等に、水は送られていく。見た目は地味だし電気もコンピューターも使わない単純な構造物だが、実はやっている仕事はとても大きいといえるのではないだろうか。そんな意識で改めて眺めてみると、穴から吹き出す水流の一本一本がとても意味のあるもののように思われて、ますます見入ってしまうのだ。
(文・写真/加藤隆悦)