文化遺産
Vol.9
四十八滝[よんじゅうはちたき]
北秋田市桂瀬

 病膏肓という言葉がある。辞書によれば、「救うことのできない状態にまで深入りすること」とある。
 人は誰でも、尋常ではないほどに何かに夢中になってしまうことがある。たとえば「滝」がそうだ。趣味で写真を始めた人が、一度滝の撮影にハマってしまうと、取り憑かれたように各地の滝の撮影に奔走する。
 昨秋の紅葉シーズンに私が森吉山麓の「安の滝」を訪れたときは、滝入口の駐車場には県外
ナンバーのクルマが何台も止まり、そこから渓流伝いに小一時間も遡上しなければならない滝の前には、すでに大変なカメラマンの数。ベストポジションで撮影したいと思うと、先客が十分に撮影に満足して撤収するまでしばらく待たなければならないほどだった。駐車場までの未舗装の林道の道のりだって相当の距離なのに、滝に取り憑かれたカメラマンたちには、そんなものはちっとも苦にならないようだ。
 ここに載せたのは、北秋田市桂瀬の「四十八滝」。ダイナミックな滝ではないが、美しい姿態が好ましい。位置的には、秋田内陸線の阿仁前田駅と桂瀬駅のほぼ中間の線路近く。国道から少し横道にそれるだけで、クルマを停めてから歩く距離もさほどなく、ドライブがてら気軽に立寄れる点も気に入っている。
 先日、冬の四十八滝はどんなものかと、近くまで行ったついでに立寄ってみた。しかし、車
道の終点から滝までのあいだの雪がとても深く、そこまでの装備はしてこなかったので探訪
は諦めた。
 あと数十メートルの距離まで来ていただけに、なんだかとても悔しい。「こういうときのた
めにカンジキでも買っておいたほうがいいかな」と、思ったりする。どうやら私も「病膏肓」の部類のようだ。
(文・写真/加藤隆悦)