文化遺産
Vol.8
中央幹線排水路[ちゅうおうかんせんはいすいろ]
大潟村

 ヨーロッパでは、大陸内に大規模な運河が張り巡らされていて、内陸奥部まで大型船舶が行き交っているという。それは、日本では考えられない光景だ。
 船こそ行き交わないものの、そんなヨーロッパの大運河を思わせる景観が、秋田にもある。それが、大潟村の中央幹線排水路だ。
 八郎潟の干拓によって生まれた大潟村は、現在の村の輪郭にあたる一周52kmを堤防で囲み、中の水をかき出して誕生した大地だ。つまり、大潟村の地面の大半は、かつての八郎潟の湖底そのもの。八郎潟は元々水深の浅い湖だったが、それでも水深4〜5m。私たちが今、大潟村の真ん中に立っていたとすると、そこは海抜-4m前後、大げさな言い方をすれば、頭の先まですっぽり海の中にいるのも同然のことになる。
 海面より低く、堤防でぐるりを囲まれた大潟村なので、農作業で使われた水や雨水など、放っておけば村全体が水浸しになってしまう。そのため、それらの水を誘導し、ポンプで堤防の外に吐き出すためにつくられたのが、この幹線排水路だ。そのような目的で生まれた水路ゆえ、一見、大河か運河を思わせながら、ここには“流れ“ もない。淀んだ水だ。海面より低い大地の水を集めるのだから、排水路の水位はさらに低く、海抜-6.7mに保たれている。
 この水面が海面よりも低いところにあるということなど、なかなかイメージしづらいが、いずれにしろ、海面より低い大地、海面より低い水風景というものが我が秋田にはあるわけで、そういう観点で大潟村をドライブしてみるのも一興ではないだろうか。
(文・写真/加藤隆悦)