文化遺産
Vol.7
小又峡[こまたきょう]
北秋田市森吉

 森吉山麓に多数存在する渓谷群のうち、とりわけ小又峡については、“最後の秘境”というキャッチフレーズがつく。しかしそれは決して誇張ではないように思われる。だいいち小又峡には、車道の終点から地続きに徒歩で足を踏み入れるというわけにはいかないのだ。
 小又峡の手前には、昭和28年の森吉ダムの完成で生まれた人造湖・太平湖があり、この湖を船で縦断しなければ、渓谷の入口にたどり着くことは出来ない。太平湖には小又峡探訪の足として一日7往復の遊覧船がピストン運航されているのだが、そもそも一帯は多雪地であり、船が運航されるのも6月から10月までのわずか5ヶ月間に限られる。事実上、11月から翌年5月までの7ヶ月間は、人の侵入を頑なに阻む原始の世界に戻るのだ。
 しかし、逆にその意味でも、踏破の出来る6月から10月までの期間はとても貴重だ。大自然の景観が素晴らしいのだ。渓谷沿いに整備された1.8kmの遊歩道の途中には、無数の滝、甌穴、淵が続き、極めつけは遊歩道終点の「三階の滝」。三段になって流れ落ちる高さ20mの滝の姿は、観光パンフレットなどで見る機会はあるけれども、実物を目の当たりにして改めて感動しない人はいないだろう。大自然の造形美の極致だ。
 「最後の秘境」とはいえ、探訪に重装備は必要ない。遊歩道にもほとんど高低差はなく、歩きやすい恰好さえしていれば老若男女誰でも楽しめる。
 県外から訪れるお客さんがいて、どこかの観光スポットに案内しなければならなくなったら、ぜひ小又峡も候補に入れていただきたい。きっと秋田の“株”があがること、間違いなしだ。
(文・写真/加藤隆悦)