文化遺産
Vol.2
滝の頭[たきのかしら]

男鹿市・寒風山北東麓

 美味しいことで定評のある秋田米だが、その同じ秋田米でも都会で食べると秋田で食べたときほどの美味しさを実感できないことがあるという。その違いはどこからくるのかというと、どうやら“水”にあるようだ。
 都会に比べて、秋田の水道水はそのまま飲んでもおおむね美味しい。美味しい米を美味しい水で炊けば、美味しいご飯になるのは当然の理屈といえる。
 水道水ですら美味しいのに、さらに美味しい水がコンコンと湧き出ている湧水スポットが秋田には随所にある。男鹿半島は寒風山の中腹に湧く「滝の頭」もその一つ。男鹿市の水道の水源にもなっている「滝の頭」には、道路沿いに無料の水汲み場がある。この水を使うとご飯やお茶、それに焼酎やウイスキーの水割りがたいそう美味しいということで、クチコミで評判になって遠方からもポリタンクやペットボトル持参で水汲みの人が大勢やってくる。
 管理事務所の許可を得て水道施設敷地を奥に進むと、エメラルドグリーンの水をたたえた神秘的な“森の泉”が現われ、その先では、苔むした岩場のあちこちからドウドウと伏流水が溢れ出している。長い年月をかけて寒風山が貯えた水だ。その湧出量は一日あたり2万5千トンにも及ぶとか。寒風山は中腹以上はほとんど樹木を見ない芝で覆われた山容だ。その寒風山にこれほどの保水力があったのかということにまず驚かされる。
 眺望が優れていることで男鹿の代表的な観光スポットになっている寒風山だが、そこは珠玉の水を生み出す“天然地下貯水池”でもあった。こんな贅沢な水を生活に使える地域の人たちが羨ましい。男鹿方面にドライブする折には、容器持参でぜひお裾分けに預かりたいものだ。
(文・写真/加藤隆悦)