文化遺産
No.68
木村屋商店

横手市大町5-23

 旧羽州街道が通る横手城下の大町にある老舗の菓子店、木村屋は土蔵造り店舗である。「柿羊羹」で知られる菓子店の創業は明治35年(1902)で、店舗の建築は日露戦争開戦の年、同37年に着工し翌年、竣工したものという。
 大町通りを挟んで「平源」と「平利」の両旅館が建っている。土蔵店舗は当時、流行のものであったのか、横手、平鹿地方にも割合多く残されている。

 木村屋商店(菓子店)は現当主、山下惣一氏の祖父山下九助氏(1872〜1983)が創業、東京三田の木村屋で修行した後の開店という。黒漆喰塗の土蔵建築は桁行12.790メートル、梁間7.970メートル、二階建て、平入、切妻造、鉄板葺、面積は約55.79平方メートルとなっており、今でも往時の異彩を保っている。
 木村屋商店創業者の九助氏は菓子職人であると同時に発明研究家の顔も合わせ持っていた。画期的な発明としてオブラートとアルミ箔を使った羊羹の包み「衛生紙缶」は広く世に知られるところとなった。このオブラート開発には、アラビア太郎の異名を持つ従兄弟の山下太郎氏らも協力したという。
 また、その衛生紙缶は、もともと羊羹の変質防止のために考案されたものだが、オブラートの特許を取得したあと、日本鋼管(NKK)の創業者である白石元治郎氏と契約し「山元オブラート」として売り出された。
 土蔵造り店舗は経済耐用年数から近年、各地で著しく取り壊しが進んでいるが、往時のファサード(建築正面)を残す近代化遺構のひとつ、「黒漆喰塗の土蔵」として国登録有形文化財となっている。

(取材・構成/藤原優太郎)