文化遺産
No.66
森長旅館

男鹿市船川港船川字栄町

近代文化遺産  男鹿半島の行政、商業の中心地である船川港は古くから日本海航路の寄港地として栄えた。明治期、近代港湾として一大築港がなされ、大正3年からの第二期工事を経て昭和5年頃には文字どおり近代港としての体裁を整えた。
 この築港最盛期に石川県から移住した先々代が元浜で旅館業を始め、その後、昭和9年、現在地に洋風のハイカラな旅館を建築したものという。本館は木造二階建てで一見、RC造りのように見えるが外壁をリシン壁とした頑丈な木造建築である。

 正面には起こり屋根形式、半円形の玄関ポーチを配し、妻飾りに蝶か、あるいは蝙蝠と思われるレリーフ意匠がある。玄関柱の上部の柱飾りや建物本体の開口部の木製上げ下げ窓、壁面上部に施された軒蛇腹文様が目を引く。一方、内部は階段部分を除いて純和風で洋風外観との対比が興味深い。
 本館正面から逆L字方向につながる「離れ」は近隣で起きた火災の延焼のあと昭和24年頃に建てられたもの。木造二階建てで和風の数寄屋造りを趣とし、一階部分は物置のため簡素な造りとなっている。本館と離れに囲まれた中庭も小規模ながらまた見るべきものがある。
 さらに敷地の東端に位置する切妻造り、平入り、鉄板葺き(元は瓦葺き)の土蔵は昭和初期の建築とされ、男鹿石の土台と白黒の漆喰壁、方杖の使用など秋田の土蔵建築の様式そのものである。
 本館の建築概要は、木造二階建て、寄棟造り、鉄板葺き、および背面木造二階建て、切妻造り、鉄板葺き、建築面積は237平方メートルで、離れの方は、木造二階建て、寄棟造り、鉄板葺き、面積79・45平方メートルとなっている。
 本館、離れ、土蔵の三建築は平成17年2月28日に国登録有形文化財に指定されている。旅館は平成一八年に営業を取りやめている。

(取材・構成/藤原優太郎)