ちなみに、大正七年といえば、千秋公園の一角に大正天皇即位記念事業としてルネサンス式洋館の秋田県記念館が開館(十月三十一日)。同時に記念図書館(秋田県立図書館の前身・旧東根小屋町)も落成していた。また同年は、明治三十七年建築の県有公会堂(現県民会館があるところ)が火災で焼失した年でもある。時あたかも大正ロマンの全盛期、旭川のほとりに新風ただようハイカラな小店舗はひときわ市民の目を集めたものと想像される。
商店街の角地に建つ二階建て、寄せ棟造りの店舗は、街路側二面に庇を設け、白漆喰籠め、瓦葺き和風の外観としたが、内部は先進的な洋風の雰囲気が随所にちりばめられた。一階床面には男鹿産の石材を使用、ショーケース台には大理石や瑪瑙(めのう)が用いられた。さらに壁面の菓子棚も一部改良されているものの大正当時のままである。建築の設計・施工にあたったのは地元の宮大工であった藤本東三郎。当時の施主の趣味が偲ばれる貴重な近代化遺産である。 |